鶴岡路人「返還後の北方領土への米軍駐留をめぐる論点――ドイツ統一とNATO拡大の事例から考える(1)、(2)」笹川平和財団・国際情勢ネットワーク分析(IINA)、2018年12月14日が笹川平和財団IINAのウェブサイトに掲載されました。
記事URL(1):https://www.spf.org/iina/articles/tsuruoka-europe-uspre1.html
記事URL(2):https://www.spf.org/iina/articles/tsuruoka-europe-uspre2.html
北方領土返還をめぐる日ロ交渉が本格化していますが、ロシア側の最大の懸念は、返還(ロシアにとっては「引き渡し」)後にそこに米軍が駐留する可能性です。たとえ現時点および予見し得る将来において米国がそれら地域(例えば歯舞・色丹)への駐留を予定していなかったとしても、そして、日本政府が将来においてもそれを認めない方針だったとしても、ロシアの懸念は荒唐無稽な誤解とは言い切れません。というのも、たとえ面積としては小さくても、北方領土の返還は「日米同盟の拡大」であり、駐留しないことに関するしっかりとした保証(assurance)が欲しいわけです。そのためには、日本のみによる約束では効果がありませんで、米国の完全なコミットメントが求められます。
旧ソ連・ロシアの近隣・隣接地域での比較可能な事例として、1990年のドイツ統一と、1990年代末からのNATOの東方拡大があります。いずれのケースでも、外国(NATO諸国)部隊の駐留を制限することで形で、旧ソ連・ロシアと西側との交渉が妥結しました。
別の観点からいえば、外国部隊の駐留を制限することによって、ドイツ統一やNATO拡大へのロシアの反対を乗り越えることができたというわけです。これらはロシアに対する保証であり、交渉が妥結させるにあたって、必要かつ効果的だったのです。
北方領土に関して、プーチン大統領をはじめとするロシア側関係者が、米軍駐留問題に盛んに言及していること自体は全く驚きではありませんで、ドイツ統一やNATO拡大の事例にかんがみれば、解決策についても、考えられる可能性はおのずと明らかです。問題は、この問題に関する合意を実現するには、日露交渉のみならず、あるいはそれ以上に日米交渉、そしてさらには米露交渉が重要になるということです。
今日の最大の問題は、米露関係が、このようなデリケートな問題に関する詰めの交渉を行えるような状況ではないようにみえることです。いずれにしても、この問題の解決がなければ、北方領土の返還は、たとえ1島でも2島でも現実的ではありません。