野村健・納家政嗣編『聞き書 緒方貞子回顧録』(岩波書店、2015年)の短評を、東京財団のサイトに掲載しました。2016年末の「2016年に読んだおすすめの一冊」という企画(2016年12月22日)でした。この本、いろいろなところで人にすすめていまして、本当に好きな本です。
東京財団サイト:
https://www.tkfd.or.jp/research/research_other/d46bjf#tsuruoka
短評全文:
「日本外交の生き字引 緒方貞子氏の問いかけ」
上智大学教授、国連難民高等弁務官、JICA理事長などを歴任した緒方貞子氏は、国際関係、日本外交のまさに生き字引である。学生時代には東京裁判を傍聴している。そして、「この裁判は、戦勝国による敗戦国の審判に過ぎない」としつつ、「満州事変から日中戦争そして太平洋戦争に至る日本の外交政策の失敗は明白」であり、「それにかかわった政策決定者にはやはり責任があります」と明快に述べ、それが満州事変研究の動機だったと語るのである。若くしてこの鋭さとバランス感覚である。そして、「人権屋さんでも難民屋さんでもなかった」緒方氏は、それぞれの分野で世界の第一人者になる。
そうした活躍の根底にあるのはヒューマニズムなのかとの問いには、「そんな大それたものではない、人間としての普通の感覚」だと喝破する。耐えられない状況に放置された人間や凄惨な現場を見てきたという緒方氏は、「見てしまったからには、何かをしないとならないでしょう? したくなるでしょう? 理屈ではないのです」と語る。この国際主義、人道主義、そして同時に究極のリアリズムとプラグマティズムをわれわれはいかに引き継いでいけるのだろうか。重い宿題である。