記事URL:https://talk.ltn.com.tw/article/paper/1373426
台湾の『自由時報』に米戦略爆撃機のグアムからの撤退についての小文を寄稿しました。オリジナルを日本語で書き、中国語に翻訳してもらったものです。ご参考までに日本語版は以下のとおりです(中国語版からは副題が省かれてしまいました)。
台湾の『自由時報』に米戦略爆撃機のグアムからの撤退についての小文を寄稿しました。オリジナルを日本語で書き、中国語に翻訳してもらったものです。ご参考までに日本語版は以下のとおりです(中国語版からは副題が省かれてしまいました)。
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(日本語オリジナル:未公刊につき無断引用禁止)
米戦略爆撃機のグアム撤退で求められるもの
――説明の一貫性と抑止態勢の全体像のなかでの議論が不可欠
鶴岡 路人(慶應義塾大学准教授)
2020年4月16日、「常時爆撃機展開ミッション(continuous bomber presence mission)」の一環としてグアムのアンダーセン空軍基地に展開していた戦略爆撃機、B-52が米本土に向けて飛び立った。これにより、2006年から継続されていた戦略爆撃機のグアムへの常時展開が終了した。最後の帰還フライトのコールサインは、ユーモアたっぷりに「SEEYA(See ya:またね)」だった。
米国によれば、これは、2018年の米国防戦略(National Defense Strategy)で示された「動的戦力運用(Dynamic Force Employment: DFE)」の実践との位置づけである。DFEでは、戦略的柔軟性と行動の自由が重視されており、変化する戦略環境のなかで、より柔軟に、積極的に、そして規模を調整して必要な場所に戦力を投入することが目指されている。作戦面においては、敵に対する予測不能性を高めることも目的の一つである。
米戦略軍によれば、今後は前方展開ではなく、「我々の選択するタイミングと頻度で」米本土からアジア太平洋地域に爆撃機を派遣することになるという。そして、同地域への米国のコミットメントは揺るがないことが強調されている。
実際、4月16日にB-52が米本土に帰還した直後の4月21日には、サウスダコタの基地所属のB-1爆撃機が日本近くに飛来し、航空自衛隊のF-2戦闘機も参加した訓練が行われた。グアムからの爆撃機の撤退は唐突だったとの印象があり、一部で懸念が表明されていたが、それに迅速に対処する形になった。
戦略爆撃機は航続距離が長いため、米本土から北東アジアに飛来し、着陸せずに米本土に帰還することが十分に可能である。そのため、少なくとも軍事的・能力的には、前方展開する必要がないと指摘される。しかし、グアムからの戦略爆撃機の撤退を考える際には、2つの問題に着目する必要がある。
第1に、今回の決定をいかに説明するかというメッセージの問題である。求められるのは、説明の一貫性である。米国自身、従来は、グアムへの爆撃機の常時展開は地域における抑止態勢や同盟国への安心供与において重要な役割を果たしていると説明していた。意味があるからこそ、コストを負担してそれを実施していたのである。爆撃機は航続距離が長いために前方展開が不要であるのは事実としても、以前からそうなのであり、突如として爆撃機の航続距離が延びたわけではない。こうした部分の説明の一貫性を保つことは、抑止と安心供与の両面において重要である。
オバマ政権下で、核弾頭付きの潜水艦発射型トマホーク巡航ミサイル(TLAM-N)の退役が決定されたが、このミサイルも、以前は、日本などの同盟国への安心供与として重要な役割を果たしているとの説明がなされていた。そのため、この退役に対しては日本の一部などで懸念が表明された。それまで重要だとされてきたものを不要、ないし他の手段で代替可能だというのであれば、丁寧な説明が求められる。
第2に、爆撃機の常時展開終了の決定は、地域の抑止態勢の全体像のなかに位置付ける必要がある。単体でその是非や影響を議論しても意味がない。米軍のDFEはグローバルなコンセプトだが、この地域では、まず日本や韓国に対してトランプ政権が強く求めるバードン・シェアリングの文脈がある。日米同盟の抑止態勢において、ミサイル防衛や警戒監視など、日本の果たす役割は上昇基調にあり、米軍の戦略爆撃機との共同訓練も増加している。加えて、2019年8月のINF(中距離核戦力)全廃条約の破棄を受けて、新たな地上発射型ミサイルのアジア太平洋地域への配備もアジェンダにのぼっている。
これらは相互に連関しており、常に全体像のなかでの位置づけを踏まえた議論を行い、抑止態勢強化のパッケージを実現することが求められる。そのためには、米国が一貫したメッセージを発するとともに、同盟国・パートナーの側も、米国の決定に反応するだけでなく、米国に対しても能動的に提案していくような姿勢がいままで以上に必要になるだろう。
(2020年5月2日脱稿)
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(2020年5月2日脱稿)
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