鶴岡路人「返還後の北方領土への米軍駐留をめぐる論点――ドイツ統一とNATO拡大の事例から考える(1)、(2)」笹川平和財団・国際情勢ネットワーク分析(IINA)、2018年12月14日が笹川平和財団IINAのウェブサイトに掲載されました。
記事URL(1):https://www.spf.org/iina/articles/tsuruoka-europe-uspre1.html
記事URL(2):https://www.spf.org/iina/articles/tsuruoka-europe-uspre2.html
北方領土返還をめぐる日ロ交渉が本格化していますが、ロシア側の最大の懸念は、返還(ロシアにとっては「引き渡し」)後にそこに米軍が駐留する可能性です。たとえ現時点および予見し得る将来において米国がそれら地域(例えば歯舞・色丹)への駐留を予定していなかったとしても、そして、日本政府が将来においてもそれを認めない方針だったとしても、ロシアの懸念は荒唐無稽な誤解とは言い切れません。というのも、たとえ面積としては小さくても、北方領土の返還は「日米同盟の拡大」であり、駐留しないことに関するしっかりとした保証(assurance)が欲しいわけです。そのためには、日本のみによる約束では効果がありませんで、米国の完全なコミットメントが求められます。
旧ソ連・ロシアの近隣・隣接地域での比較可能な事例として、1990年のドイツ統一と、1990年代末からのNATOの東方拡大があります。いずれのケースでも、外国(NATO諸国)部隊の駐留を制限することで形で、旧ソ連・ロシアと西側との交渉が妥結しました。
別の観点からいえば、外国部隊の駐留を制限することによって、ドイツ統一やNATO拡大へのロシアの反対を乗り越えることができたというわけです。これらはロシアに対する保証であり、交渉が妥結させるにあたって、必要かつ効果的だったのです。
北方領土に関して、プーチン大統領をはじめとするロシア側関係者が、米軍駐留問題に盛んに言及していること自体は全く驚きではありませんで、ドイツ統一やNATO拡大の事例にかんがみれば、解決策についても、考えられる可能性はおのずと明らかです。問題は、この問題に関する合意を実現するには、日露交渉のみならず、あるいはそれ以上に日米交渉、そしてさらには米露交渉が重要になるということです。
今日の最大の問題は、米露関係が、このようなデリケートな問題に関する詰めの交渉を行えるような状況ではないようにみえることです。いずれにしても、この問題の解決がなければ、北方領土の返還は、たとえ1島でも2島でも現実的ではありません。
2018/12/22
2018/12/11
Responding to North Korea: Challenges for Tokyo
Michito Tsuruoka, "Responding to North Korea: Challeges for Tokyo," Monde Chinois, No. 53 (2018) was published earlier this year.
It is a special issue on the North Korean crisis of the Monde Chinois, a French journal specialised in Chinese/Asian affairs. The editor of the special issue Marianne Peron-Doise kindly invited me to contribute a piece on Japan's perspective.
Publisher's website: http://eska-publishing.com/fr/monde-chinois/1132849-monde-chinois-53-mc20185300-peninsule-coreenne-crise-dissuasion-negociations.html
<Abstract of my paper>
Tokyo is responding to the North Korean crisis – domestically, in the context of the alliance with the United States and more broadly on the international scene – and this article will put it in a broader context of Japan’s security and defence discourse. One can see that Tokyo’s capability and willingness to address the security threats and challenges have increased substantially over the decade, not least under Prime Minister Shinzo Abe. There remains crucial choices to be done to ensure an appropriate level of security to the country : as the BMD is offering a limited protection, others options are being more explored today.
It is a special issue on the North Korean crisis of the Monde Chinois, a French journal specialised in Chinese/Asian affairs. The editor of the special issue Marianne Peron-Doise kindly invited me to contribute a piece on Japan's perspective.
Publisher's website: http://eska-publishing.com/fr/monde-chinois/1132849-monde-chinois-53-mc20185300-peninsule-coreenne-crise-dissuasion-negociations.html
<Abstract of my paper>
Tokyo is responding to the North Korean crisis – domestically, in the context of the alliance with the United States and more broadly on the international scene – and this article will put it in a broader context of Japan’s security and defence discourse. One can see that Tokyo’s capability and willingness to address the security threats and challenges have increased substantially over the decade, not least under Prime Minister Shinzo Abe. There remains crucial choices to be done to ensure an appropriate level of security to the country : as the BMD is offering a limited protection, others options are being more explored today.
2018/12/09
Japan's Indo-Pacific Engagement: The Rationale and Challenges
Michito Tsuruoka, "Japan's Indo-Pacific Engagement: The Ratioale and Challenges," Commentary, Italian Institute for International Political Studies (ISPI), 4 June 2018 is availale online.
Aarticle URL: https://www.ispionline.it/en/pubblicazione/japans-indo-pacific-engagement-rationale-and-challenges-20691
This is part of a series of short pieces (Dossier) on the geopolitics of the Indo-Pacific region, coordinated by Axel Berkofsky, including pieces by Dhruva Jaishanker, Thomas Wilkins, Brad Glosserman and others.
Dossier URL: https://www.ispionline.it/en/pubblicazione/indo-pacific-towards-transformation-asias-geopolitics-20698
Aarticle URL: https://www.ispionline.it/en/pubblicazione/japans-indo-pacific-engagement-rationale-and-challenges-20691
This is part of a series of short pieces (Dossier) on the geopolitics of the Indo-Pacific region, coordinated by Axel Berkofsky, including pieces by Dhruva Jaishanker, Thomas Wilkins, Brad Glosserman and others.
Dossier URL: https://www.ispionline.it/en/pubblicazione/indo-pacific-towards-transformation-asias-geopolitics-20698
2018/12/07
The Transatlantic Community and Japan under Pressure
Michito Tsuruoka, "A Community of Shared Values: The Transatlantic Community and Japan under Pressure," Atlantic Community, 17 April 2018 is available online.
Article URL: https://atlantic-community.org/a-community-of-shared-values-the-transatlantic-view-from-japan/
This short piece discusses Japan's views on the changing nature of the transatlantic community in the era of Donald Trump. Tokyo expects the transatlantic relationship to remain in a good shape and still believes that Europe and the US share values and interest a lot more than with others, particularly Russia and China.
Article URL: https://atlantic-community.org/a-community-of-shared-values-the-transatlantic-view-from-japan/
2018/12/04
岐路に立つ米欧関係と欧州「自律性」の模索(『外交』寄稿論文)
「岐路に立つ米欧関係と欧州『自律性』の模索」と題した小文を『外交』第49号(2018年5-6月号)に掲載いたしました。
外務省紹介サイト:https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/gaikou/vol49.html
今回は(といってもしばらく前ですが・・・)、トランプ政権下でさまざまに揺さぶられている米欧関係を、変化とともに従来からの連続性のなかで考えてみました。国防予算の水準を中心としたバードン・シェアリングをめぐる米欧間の議論は厳しさを増していますが、批判を受ける側の欧州では、負担を増やさざるを得ないのであれば、「戦略的自立性(strategic autonomy)」を高めるべきだという議論になります。このあたりが、日米同盟における日本とは異なる部分です。
その場合に、実は米国の側も、「どこまで欧州の自立を認められるか」が問われることになります。バードン・シェアリングは、パワー・シェアリングを伴うべきものであり、バードン(負担)は共有してもパワーは米国が独り占め、というのでは成立しません。もちろん欧州の側には、本当にどこまで安全保障・防衛面での負担を増大させる用意があるかが問われるわけです。ただ少なくとも、国防予算を増やし、装備品の調達を増やすのであれば、米国からの輸入ではなく、欧州内で調達すべきだと考えるのは欧州として自然なことです。この点も、米国からの防衛装備品輸入をトランプ政権懐柔策の重要な柱として使う日本とは状況が違います。
もっとも、これらはいずれも、どちらが正しいという性質の問題ではありません。欧州には欧州の事情と論理があり、日本には日本の事情と論理があるわけです。それでも、互いを考え方を理解しなければ、無用なすれ違いが生まれてしまいますし、それぞれにとっての外交・安保上の選択肢を狭めてしまう結果にもなってしまうのだと思います。
外務省紹介サイト:https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/gaikou/vol49.html
今回は(といってもしばらく前ですが・・・)、トランプ政権下でさまざまに揺さぶられている米欧関係を、変化とともに従来からの連続性のなかで考えてみました。国防予算の水準を中心としたバードン・シェアリングをめぐる米欧間の議論は厳しさを増していますが、批判を受ける側の欧州では、負担を増やさざるを得ないのであれば、「戦略的自立性(strategic autonomy)」を高めるべきだという議論になります。このあたりが、日米同盟における日本とは異なる部分です。
その場合に、実は米国の側も、「どこまで欧州の自立を認められるか」が問われることになります。バードン・シェアリングは、パワー・シェアリングを伴うべきものであり、バードン(負担)は共有してもパワーは米国が独り占め、というのでは成立しません。もちろん欧州の側には、本当にどこまで安全保障・防衛面での負担を増大させる用意があるかが問われるわけです。ただ少なくとも、国防予算を増やし、装備品の調達を増やすのであれば、米国からの輸入ではなく、欧州内で調達すべきだと考えるのは欧州として自然なことです。この点も、米国からの防衛装備品輸入をトランプ政権懐柔策の重要な柱として使う日本とは状況が違います。
もっとも、これらはいずれも、どちらが正しいという性質の問題ではありません。欧州には欧州の事情と論理があり、日本には日本の事情と論理があるわけです。それでも、互いを考え方を理解しなければ、無用なすれ違いが生まれてしまいますし、それぞれにとっての外交・安保上の選択肢を狭めてしまう結果にもなってしまうのだと思います。
2018/12/03
NATO首脳会合とは何だったのかーー米欧同盟の行方
笹川平和財団の国際情報ネットワーク分析(IINA)に「NATO首脳会合とは何だったのか――米欧同盟の行方」(2018年8月1日)を掲載しました。
記事URL:https://www.spf.org/iina/articles/tsuruoka-europe-nato.html
2018年7月11-12日にブリュッセルのNATO本部で行われたNATO首脳会合について、その直後に書いた小文です。トランプ大統領の大立ち回りがあり、報道としては、まさに「トランプ劇場」に終始した感じですが、首脳会合の宣言文書を読むと、意外なことに非常に沢山の実質的成果があった首脳会合だったことが分かります。
マティス国防長官を筆頭に、ハッチソンNATO大使なども尽力し、いわば「トランプ大統領からNATOを守った」ということのようでして、それはそれで成功だったのかもしれません。しかし、このやり方がいつまで続くかは楽観できません。
ただ、この秋にノルウェーで実施されたNATOの統合演習(Trident Juncture)は、まさにブリュッセル首脳会合での合意事項に沿ったものでして、その方向でNATOの変革、特に対露抑止態勢の強化が進められていることは確かなようです。トランプ時代のNATOについては、引き続きさまざまなところでフォローしていきます。
記事URL:https://www.spf.org/iina/articles/tsuruoka-europe-nato.html
2018年7月11-12日にブリュッセルのNATO本部で行われたNATO首脳会合について、その直後に書いた小文です。トランプ大統領の大立ち回りがあり、報道としては、まさに「トランプ劇場」に終始した感じですが、首脳会合の宣言文書を読むと、意外なことに非常に沢山の実質的成果があった首脳会合だったことが分かります。
マティス国防長官を筆頭に、ハッチソンNATO大使なども尽力し、いわば「トランプ大統領からNATOを守った」ということのようでして、それはそれで成功だったのかもしれません。しかし、このやり方がいつまで続くかは楽観できません。
ただ、この秋にノルウェーで実施されたNATOの統合演習(Trident Juncture)は、まさにブリュッセル首脳会合での合意事項に沿ったものでして、その方向でNATOの変革、特に対露抑止態勢の強化が進められていることは確かなようです。トランプ時代のNATOについては、引き続きさまざまなところでフォローしていきます。
2018/12/02
イギリスのTPP参加?
ハフポスト日本版に「イギリスのTPP参加?まずは『ソフトBrexit』実現が優先課題」(2018年11月19日)と題した小文を掲載しました。
EU・英国間の離脱交渉はひとまず妥結したものの、英国議会での離脱協定の承認は難航しそうな状況です。そのためまだ今後どうなるか分かりませんが、並行して、英国のEU離脱後のTPP参加の問題が、日本でもときおり話題になっています。日本国内では、英国のTPP参加を歓迎する、ないしさらに踏み込んでそれを「促す」といった声が聞こえます。
しかし、そもそもEU離脱後の英国がTPPに入れるほどの貿易政策の自由度を得られるか否かは、EUからの離脱の形態次第であり、TPPに参加できるということは、EU単一市場・関税同盟との関係が弱くなるということです。これは、いわゆる「ハードBrexit(離脱)」でして、英国に進出した日本企業の利益には反します。つまり、日本の立場として、「英国のTPP参加を支持する・促すこと」と、「日本企業に(Brexitによる)影響が出ないようにする」ことは全く両立しないのが現実です。
そのことは英国自身がもちろん分かっていまして、だからこそ実はTPP参加についても、「潜在的に」その可能性を追求するといっているに過ぎません。まずは英国が、TPPに参加できないほどにEU単一市場・関税同盟と緊密な関係を維持してもらうように期待したいところです。
しばらくこのブログの更新をさぼっておりました・・・。今後、過去の刊行物を含めて、さかのぼって順次アップしていきたいと思います。引き続きよろしくお願いいたします。
2018/06/23
CSIS Strategic Japan Program - Working Paper and Podcast
I stayed at the Center for Strategic and International Studies (CSIS) in March 2018 as a Strategic Japan visiting fellow. During my stay there, I published a Working Paper and recorded a podcast, both on Japan-Europe relations.
The title of the Working Paper is "Japan and Europe as Strategic Partners: Opportunities and Challenges" (March 2018) and available here. The program started in 2014 and all the Strategic Japan Working Papers can be found here.
Paper PDF: https://csis-prod.s3.amazonaws.com/s3fs-public/180402_Strategic_Japan_Michito_Tsuruoka_paper%20%28final%29.pdf?pSmCsB3IImuyNihdw.JUiAz4vTI9of8d
All Strategic Japan Working Papers: https://www.csis.org/programs/japan-chair/strategic-japan-working-papers
The Podcast I recorded with Heather Conley, Senior Vice-President for Europe, Eurasia and the Arctic at CSIS, "Japan's Challenges in Eurasia," which also includes an interview with Yoko Hirose, a colleague of mine at Keio University who joined the same program a little earlier than me, can be found here.
Podcast URL: https://www.csis.org/podcasts/cogitasia/japans-challenges-eurasia
Soundcloud link: https://soundcloud.com/csis-57169780/japans-challenges-in-eurasia
Paper PDF: https://csis-prod.s3.amazonaws.com/s3fs-public/180402_Strategic_Japan_Michito_Tsuruoka_paper%20%28final%29.pdf?pSmCsB3IImuyNihdw.JUiAz4vTI9of8d
All Strategic Japan Working Papers: https://www.csis.org/programs/japan-chair/strategic-japan-working-papers
The Podcast I recorded with Heather Conley, Senior Vice-President for Europe, Eurasia and the Arctic at CSIS, "Japan's Challenges in Eurasia," which also includes an interview with Yoko Hirose, a colleague of mine at Keio University who joined the same program a little earlier than me, can be found here.
Podcast URL: https://www.csis.org/podcasts/cogitasia/japans-challenges-eurasia
Soundcloud link: https://soundcloud.com/csis-57169780/japans-challenges-in-eurasia
2018/06/04
The Donald J. Trump Administration as Seen from Tokyo: Will the US-Japan Alliance Remain Unique?
Michito Tsuruoka, "The Donald J. Trump Administration as Seen from Tokyo: Will the US-Japan Alliance Remain Unique?" IAI Papers, 18/02 (Rome: Istituto affari internazionali, January 2018) is available at the IAI website.
The paper examiens the initial phase of the US-Japan relationship under the Trump administration - how Prime Minister Shinzo Abe has tried to establish a new personal relationship with the new president and why Tokyo's approach has been different from many European countries.
Article (PDF): http://www.iai.it/sites/default/files/iaip1802.pdf
イタリア国際問題研究所(IAI)のIAI Papersシリーズに、「日本から見たドナルド・トランプ政権――日米同盟はユニークであり続けるのか」と題した小文(英語)を寄稿しました。2017年末頃までの、いまから振り返れば「トランプ・安倍蜜月」だった時期を主に対象にし、トランプ大統領の懐に飛び込むような安倍外交がいかに実現可能だったかを、欧州諸国の対トランプ政権アプローチとの比較で論じました。
また、NATO諸国に対しては、バードン・シャアリングの一環でGDP比2パーセントの国防予算支出を強く求めつつ、日本に大して防衛予算増額の要求は(いまのところ)聞かれません。これについても、NATOと日米同盟の比較で考えてみました。
基本的な議論は、以前に日本語で発表していた下記の拙稿に沿ったものです。
The paper examiens the initial phase of the US-Japan relationship under the Trump administration - how Prime Minister Shinzo Abe has tried to establish a new personal relationship with the new president and why Tokyo's approach has been different from many European countries.
Article (PDF): http://www.iai.it/sites/default/files/iaip1802.pdf
イタリア国際問題研究所(IAI)のIAI Papersシリーズに、「日本から見たドナルド・トランプ政権――日米同盟はユニークであり続けるのか」と題した小文(英語)を寄稿しました。2017年末頃までの、いまから振り返れば「トランプ・安倍蜜月」だった時期を主に対象にし、トランプ大統領の懐に飛び込むような安倍外交がいかに実現可能だったかを、欧州諸国の対トランプ政権アプローチとの比較で論じました。
また、NATO諸国に対しては、バードン・シャアリングの一環でGDP比2パーセントの国防予算支出を強く求めつつ、日本に大して防衛予算増額の要求は(いまのところ)聞かれません。これについても、NATOと日米同盟の比較で考えてみました。
基本的な議論は、以前に日本語で発表していた下記の拙稿に沿ったものです。
- 鶴岡路人「全てが振り出しに戻ったトランプ大統領の欧州訪問――日本にとっても対岸の火事ではない」ハフポスト日本版(2017年5月29日)
- 鶴岡路人「トランプ政権の誕生と欧州ーー『トランプ現象』波及への懸念とバードン・シェアリング」『世界経済評論』(2017年3-4月号)
2018/06/03
残り一年を切ったBrexit(2)――EUはどう変わるか
笹川平和財団の国際情報ネットワーク分析(IINA)に、「残り一年を切ったBrexit(2)――EUはどう変わるか」(2018年5月30日)を寄稿しました。
今回はBrexitにともなうEU側の変化に着目し、EUにおけるパワーバランスの変化、英国を懐かしむ「英国ロス」感情、中小国による新たな連合形成の動き、そしてEUの不可避的な階層化などを取り上げました。離脱交渉もそろそろ山場ですが、EU27にとっては、離脱交渉よりも英国離脱後のEUの運命の方が優先度の高い課題です。
今回は後編でして、前編「残り一年を切ったBrexit(1)――EU・英国関係はどこに向かうのか」(2018年5月8日)では、副題のとおり、EU・英国関係を、アイルランド国境問題や関税同盟問題を中心に考えてみました。あわせてご覧ください。
今回は後編でして、前編「残り一年を切ったBrexit(1)――EU・英国関係はどこに向かうのか」(2018年5月8日)では、副題のとおり、EU・英国関係を、アイルランド国境問題や関税同盟問題を中心に考えてみました。あわせてご覧ください。
2018/05/26
残り一年を切ったBrexit(1)――EU・英国関係はどこに向かうのか
笹川平和財団(SPF)の国際情報ネットワーク分析(IINA・「いいな」)に、「残り一年を切ったBrexit(1)――EU・英国関係はどこに向かうのか」(2018年5月8日)を寄稿しました。
記事URL:https://www.spf.org/iina/articles/tsuruoka-europe-brexit.html
4月下旬に書いた原稿ですが、特に、北アイルランド国境問題に関連しての関税同盟・単一市場問題は、その後も熱い議論――すなわち、メイ政権としても決定できない状況――が続いています。現実的な解決策は明確だが、それが政治的に受け入れ困難であるが故に時間ばかりが経ってしまう、という構図です。これまでEUとの離脱交渉では、譲歩に譲歩を迫られてきたメイ政権もまさに正念場です。
「残り一年を切ったBrexit」は、3回シリーズでIINAに掲載予定です。(2)では、BrexitにともなうEU側の変化を取り上げます。近日中にアップされるはずです。
記事URL:https://www.spf.org/iina/articles/tsuruoka-europe-brexit.html
4月下旬に書いた原稿ですが、特に、北アイルランド国境問題に関連しての関税同盟・単一市場問題は、その後も熱い議論――すなわち、メイ政権としても決定できない状況――が続いています。現実的な解決策は明確だが、それが政治的に受け入れ困難であるが故に時間ばかりが経ってしまう、という構図です。これまでEUとの離脱交渉では、譲歩に譲歩を迫られてきたメイ政権もまさに正念場です。
「残り一年を切ったBrexit」は、3回シリーズでIINAに掲載予定です。(2)では、BrexitにともなうEU側の変化を取り上げます。近日中にアップされるはずです。
2018/05/21
国際秩序をめぐる攻防の時代(『国際安全保障』特集号)
国際安全保障学会編『国際安全保障』第45巻第4号(2018年3月)、特集「国際秩序をめぐる攻防の時代」が刊行されました。鶴岡が編集主任を務め、特集論文の執筆陣には、玉置敦彦、小泉悠、山口信治、白鳥潤一郎という、若手を中心とした、まさに新進気鋭の皆さんにご参加いただきました。
今回は、『国際安全保障』の特集号としては異例だったかと思いますが、執筆者間で研究会を2度実施しました。問題意識を共有するのみならず、原稿にコメントし合うなど、作成過程も非常に充実し、楽しい時間でした。このところ、さまざまな雑誌が国際秩序に関連した特集を組んでいますが、外交・安全保障の観点から、今回の特集が何らかの貢献ができたのであれば嬉しいことです。執筆者、そしてその他関係者の皆様、大変お世話になりました。改めて感謝いたします。
国際安全保障学会サイト:
http://is-japan.org/journal/articles_jp.html#45_4
内外出版株式会社サイト(オンラインストア):
http://www.naigai-group.co.jp/_2018/04/454.html
今回は、『国際安全保障』の特集号としては異例だったかと思いますが、執筆者間で研究会を2度実施しました。問題意識を共有するのみならず、原稿にコメントし合うなど、作成過程も非常に充実し、楽しい時間でした。このところ、さまざまな雑誌が国際秩序に関連した特集を組んでいますが、外交・安全保障の観点から、今回の特集が何らかの貢献ができたのであれば嬉しいことです。執筆者、そしてその他関係者の皆様、大変お世話になりました。改めて感謝いたします。
国際安全保障学会サイト:
http://is-japan.org/journal/articles_jp.html#45_4
内外出版株式会社サイト(オンラインストア):
http://www.naigai-group.co.jp/_2018/04/454.html
2018/04/03
英国での元スパイ毒殺未遂事件に、なぜ欧州は強く反応したのか
ハフポスト日本版に「英国での元スパイ毒殺未遂事件に、なぜ欧州は強く反応したのか」(2018年4月2日)と題した小文を掲載しました。
記事URL:https://www.huffingtonpost.jp/michito-tsuruoka/eu-spy-russia_a_23400053/
内容はタイトルのとおりでして、3月4日に英ソールズベリーで発生した元ロシアスパイのセルゲイ・スクリパリ氏の毒殺未遂事件への欧州諸国、EU、NATOの反応を分析したものです。
加えて、やはりいろいろ考えさせられるのは日本の対応です。これについても後半部分で触れました。やみくもに日本もロシア外交官を何人か追放すればよいとは必ずしも思わないのですが、ロシアとの関係が「これまで通り(business as usual)」でよいのかは、日本外交にとってのプラスとマイナスを冷徹に計算するなかで改めて検討しなければならないと考えています。
今回の事件について日本では、「欧米とロシアが対立している」といった他人事的雰囲気や、「スパイ小説のような」云々といったワイドショー的取り上げ方が多い気がしますが、日本にとっても他人事ではない、政治・外交・安全保障上の深刻な課題です。
記事URL:https://www.huffingtonpost.jp/michito-tsuruoka/eu-spy-russia_a_23400053/
内容はタイトルのとおりでして、3月4日に英ソールズベリーで発生した元ロシアスパイのセルゲイ・スクリパリ氏の毒殺未遂事件への欧州諸国、EU、NATOの反応を分析したものです。
加えて、やはりいろいろ考えさせられるのは日本の対応です。これについても後半部分で触れました。やみくもに日本もロシア外交官を何人か追放すればよいとは必ずしも思わないのですが、ロシアとの関係が「これまで通り(business as usual)」でよいのかは、日本外交にとってのプラスとマイナスを冷徹に計算するなかで改めて検討しなければならないと考えています。
今回の事件について日本では、「欧米とロシアが対立している」といった他人事的雰囲気や、「スパイ小説のような」云々といったワイドショー的取り上げ方が多い気がしますが、日本にとっても他人事ではない、政治・外交・安全保障上の深刻な課題です。
2018/02/23
Japan First vs. Global Japan
Michito Tsuruoka, "Japan First Versus Global Japan," The National Interest (14 January 2018) is available online.
URL: http://nationalinterest.org/feature/japan-first-versus-global-japan-24063
This short piece examines the state of Japan's foreign and security policy discourse - particularly looking at the competition between the "Japan First" and "Global Japan" camps. While those in the "Global Japan" camp dominate Japan's voices in the international arena, including various international conferences, the "Japan First" camp remains formidable in the domestic context... The "Global Japan" camp is hardly winning.
米National Interestのサイトに、「Japan First Versus Global Japan(「日本第一」対「グローバル日本」)」という小文を寄稿しました。日本の外交・安全保障政策を巡る日本国内の議論状況を、「日本第一」派と「グローバル日本」派のせめぎ合いとして整理してみました。
URL:http://nationalinterest.org/feature/japan-first-versus-global-japan-24063
端的にいって前者は、「日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増すなかで、有する資源は全て、北朝鮮と尖閣という最優先課題に傾注すべきで、それ以外を考える余裕はない」という立場であり、後者は、「日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増しているからこそ、新たなパートナーも必要であり、グローバルな関与がいままで以上に求められている」と主張しています。
日本人が日本で観察している限り、前者の「日本第一」派のような考え方が優勢であることは感覚的に理解している人が多いと思います。しかし、国際会議に出席したり、海外の専門家と議論したりしていると、「グローバル日本」派の見方が実態以上に浸透していることに気付かされます。特に英語での発信という観点では、やはり「グローバル日本」派の人の声が大きくなりがちな結果なんだと思います。(かくいう私もその片棒を担いでいるのだと思いますが・・・。)そんな背景があり、この問題をまずは英語で何とか説明できないか、というのがこの小文です。いずれ、もう少し長い、しっかりした論文にしたいところです。
URL: http://nationalinterest.org/feature/japan-first-versus-global-japan-24063
This short piece examines the state of Japan's foreign and security policy discourse - particularly looking at the competition between the "Japan First" and "Global Japan" camps. While those in the "Global Japan" camp dominate Japan's voices in the international arena, including various international conferences, the "Japan First" camp remains formidable in the domestic context... The "Global Japan" camp is hardly winning.
米National Interestのサイトに、「Japan First Versus Global Japan(「日本第一」対「グローバル日本」)」という小文を寄稿しました。日本の外交・安全保障政策を巡る日本国内の議論状況を、「日本第一」派と「グローバル日本」派のせめぎ合いとして整理してみました。
URL:http://nationalinterest.org/feature/japan-first-versus-global-japan-24063
端的にいって前者は、「日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増すなかで、有する資源は全て、北朝鮮と尖閣という最優先課題に傾注すべきで、それ以外を考える余裕はない」という立場であり、後者は、「日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増しているからこそ、新たなパートナーも必要であり、グローバルな関与がいままで以上に求められている」と主張しています。
日本人が日本で観察している限り、前者の「日本第一」派のような考え方が優勢であることは感覚的に理解している人が多いと思います。しかし、国際会議に出席したり、海外の専門家と議論したりしていると、「グローバル日本」派の見方が実態以上に浸透していることに気付かされます。特に英語での発信という観点では、やはり「グローバル日本」派の人の声が大きくなりがちな結果なんだと思います。(かくいう私もその片棒を担いでいるのだと思いますが・・・。)そんな背景があり、この問題をまずは英語で何とか説明できないか、というのがこの小文です。いずれ、もう少し長い、しっかりした論文にしたいところです。
2018/02/18
Interview with The Ukrainian Week
My interview with The Ukrainian Week appeared in its January 2018 issue. It is an English edition of "Tyzhden," Ukraine's leading news magazine. I spoke to them when I visited Kyiv in November 2017 and discussed Japan and the North Korean crisis, the Japan-US alliance and Japan-NATO cooperation among other issues.
PDF: http://i.tyzhden.ua/content/photoalbum/2018/01_2018/23/uw/Book_1.pdf
Ukrainian: http://tyzhden.ua/World/207880
PDF: http://i.tyzhden.ua/content/photoalbum/2018/01_2018/23/uw/Book_1.pdf
Ukrainian: http://tyzhden.ua/World/207880
2018/02/01
短評:ミュラー『ポピュリズムとは何か』
しばらく前ですが、東京財団の「2017年に読んだおすすめの本」という企画に、ヤン=ヴェルナー・ミュラー(板橋拓己訳)『ポピュリズムとは何か』(岩波書店、2017年)の短評を寄稿しました。短いですので、全文を下記に転載します。リンクはこちらです。他の研究員もそれぞれに興味深い本を挙げています。
東京財団サイト:https://www.tkfd.or.jp/research/research_other/rssmfy#tsuruoka
【短評】(東京財団サイトより)
東京財団サイト:https://www.tkfd.or.jp/research/research_other/rssmfy#tsuruoka
【短評】(東京財団サイトより)
2017年もまた、「ポピュリズム」という言葉を無視しては過ごせない年になってしまった。フランスの大統領選挙ではマクロン候補の勝利により極右国民戦線の大統領誕生が阻止されたものの、火種は各国でくすぶっている。
ポピュリスト勢力とともに、ポピュリズム批判も巷に溢れているが、そもそもポピュリズムとは何なのか。民主主義を活性化させるために、大衆の声を聞くという意味のポピュリズムはむしろ有用なのではないかとの声もある。そうした、「ポピュリズムも必要悪」といった見方を一刀両断にし、ポピュリズムは民主主義への脅威であると明確に位置づけるのがミュラーの議論である。
著者は、「自分たちが、それも自分たちだけが真正な人民を代表する」というポピュリストの主張こそが最も危険だという。それは、自らに反対する勢力はすべて異端で正統ではないとの考えそのものであり、反多元主義であるがゆえに、民主主義とは根本的に相容れないというのである。与党と野党が存在し、様々な意見が許されるのが民主主義の根幹であり、ミュラーの指摘は重い。
こうした真剣な警告も、欧米諸国と比較してポピュリスト勢力が成功していない日本ではあまり響かないかもしれない。しかし、重大な出来事が起きてから慌てないためにも、今の段階から考えを深め、対策を考えておくべきだろう。
原著:Jan-Werner Müller, What Is Populism? (The University of Pennsylvania Press, 2016)
ポピュリスト勢力とともに、ポピュリズム批判も巷に溢れているが、そもそもポピュリズムとは何なのか。民主主義を活性化させるために、大衆の声を聞くという意味のポピュリズムはむしろ有用なのではないかとの声もある。そうした、「ポピュリズムも必要悪」といった見方を一刀両断にし、ポピュリズムは民主主義への脅威であると明確に位置づけるのがミュラーの議論である。
著者は、「自分たちが、それも自分たちだけが真正な人民を代表する」というポピュリストの主張こそが最も危険だという。それは、自らに反対する勢力はすべて異端で正統ではないとの考えそのものであり、反多元主義であるがゆえに、民主主義とは根本的に相容れないというのである。与党と野党が存在し、様々な意見が許されるのが民主主義の根幹であり、ミュラーの指摘は重い。
こうした真剣な警告も、欧米諸国と比較してポピュリスト勢力が成功していない日本ではあまり響かないかもしれない。しかし、重大な出来事が起きてから慌てないためにも、今の段階から考えを深め、対策を考えておくべきだろう。
原著:Jan-Werner Müller, What Is Populism? (The University of Pennsylvania Press, 2016)
2018/01/31
Japan and the UK as Strategic Partners After Brexit
Michito Tsuruoka, "Japan and the UK as Strategic Partners After Brexit," Asia Pacific Bulletin, No. 410 (Washington, D.C.: East-West Center, 9 January 2018) is available at the EWC website.
PDF: https://www.eastwestcenter.org/publications/japan-and-the-uk-strategic-partners-after-brexit
In this brief piece, I discuss recent developments of Japan-UK cooperation, including in the security and defence domains, in light of Brexit. The fact that the UK, which has long been seen as a gateway to Europe for Japan, is leaving the EU will inevitably have negative consequences for Japan's interest. But at the same time, Britain needs non-EU partners more than ever before, which could stimulate the development of Japan-UK cooperation.
PDF: https://www.eastwestcenter.org/publications/japan-and-the-uk-strategic-partners-after-brexit
In this brief piece, I discuss recent developments of Japan-UK cooperation, including in the security and defence domains, in light of Brexit. The fact that the UK, which has long been seen as a gateway to Europe for Japan, is leaving the EU will inevitably have negative consequences for Japan's interest. But at the same time, Britain needs non-EU partners more than ever before, which could stimulate the development of Japan-UK cooperation.
米イースト・ウェスト・センターのAsia Pacific Bulletinのシリーズに、英国のEU離脱(Brexit)を控えての日英関係についての英語の小文(Japan and the UK as Strategic Partners After Brexit)を寄稿しました。
長年にわたって日本は欧州への窓口としての英国に依存してきましたので、Brexitは大きな損失であることは否定できません。しかし、英国がEUを離脱することで、英国にとってEU域外のパートナーとの関係構築がいままで以上に重要になっているという側面もあります。そうしたなかで、インドなどと並んで日本との関係の優先度も上昇しているわけでして、日英協力にとっては追い風ともいえる状況も生まれています。ただ、今後しばらくBrexit関連の交渉やその後始末に追われる英国が、どこまでグローバルな関与を維持できるかは油断を許しません・・・。
同じシリーズで英国側からの視点を、Henry Jackson SocietyのJohn Hemmings氏が寄稿しています。以下URLからダウンロード可能です。
2018/01/15
欧州安全保障環境の変容(『ディフェンス』第55号寄稿)
隊友会刊行の『ディフェンス』第55号(2017年)に「欧州安全保障環境の変容――3つの脅威への対応」と題して小文を寄稿しました。「東の脅威」、「南の脅威」、そして「内なる脅威」への対応に迫られる欧州の現状を概観したものです。自衛隊関係者以外にはなかなか馴染みのない媒体かと思いますが、もし機会がありましたら、ご笑覧いただければ幸いです。