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2020/05/20

米戦略爆撃機のグアム撤退(『自由時報』寄稿)

鶴岡路人「美國戰略轟炸機 撤離關島」『自由時報』(2020年5月18日)。

記事URL:https://talk.ltn.com.tw/article/paper/1373426




台湾の『自由時報』に米戦略爆撃機のグアムからの撤退についての小文を寄稿しました。オリジナルを日本語で書き、中国語に翻訳してもらったものです。ご参考までに日本語版は以下のとおりです(中国語版からは副題が省かれてしまいました)。

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(日本語オリジナル:未公刊につき無断引用禁止)

米戦略爆撃機のグアム撤退で求められるもの
――説明の一貫性と抑止態勢の全体像のなかでの議論が不可欠 

鶴岡 路人(慶應義塾大学准教授)

2020年4月16日、「常時爆撃機展開ミッション(continuous bomber presence mission)」の一環としてグアムのアンダーセン空軍基地に展開していた戦略爆撃機、B-52が米本土に向けて飛び立った。これにより、2006年から継続されていた戦略爆撃機のグアムへの常時展開が終了した。最後の帰還フライトのコールサインは、ユーモアたっぷりに「SEEYA(See ya:またね)」だった。

米国によれば、これは、2018年の米国防戦略(National Defense Strategy)で示された「動的戦力運用(Dynamic Force Employment: DFE)」の実践との位置づけである。DFEでは、戦略的柔軟性と行動の自由が重視されており、変化する戦略環境のなかで、より柔軟に、積極的に、そして規模を調整して必要な場所に戦力を投入することが目指されている。作戦面においては、敵に対する予測不能性を高めることも目的の一つである。

米戦略軍によれば、今後は前方展開ではなく、「我々の選択するタイミングと頻度で」米本土からアジア太平洋地域に爆撃機を派遣することになるという。そして、同地域への米国のコミットメントは揺るがないことが強調されている。 

実際、4月16日にB-52が米本土に帰還した直後の4月21日には、サウスダコタの基地所属のB-1爆撃機が日本近くに飛来し、航空自衛隊のF-2戦闘機も参加した訓練が行われた。グアムからの爆撃機の撤退は唐突だったとの印象があり、一部で懸念が表明されていたが、それに迅速に対処する形になった。 

戦略爆撃機は航続距離が長いため、米本土から北東アジアに飛来し、着陸せずに米本土に帰還することが十分に可能である。そのため、少なくとも軍事的・能力的には、前方展開する必要がないと指摘される。しかし、グアムからの戦略爆撃機の撤退を考える際には、2つの問題に着目する必要がある。 

第1に、今回の決定をいかに説明するかというメッセージの問題である。求められるのは、説明の一貫性である。米国自身、従来は、グアムへの爆撃機の常時展開は地域における抑止態勢や同盟国への安心供与において重要な役割を果たしていると説明していた。意味があるからこそ、コストを負担してそれを実施していたのである。爆撃機は航続距離が長いために前方展開が不要であるのは事実としても、以前からそうなのであり、突如として爆撃機の航続距離が延びたわけではない。こうした部分の説明の一貫性を保つことは、抑止と安心供与の両面において重要である。

オバマ政権下で、核弾頭付きの潜水艦発射型トマホーク巡航ミサイル(TLAM-N)の退役が決定されたが、このミサイルも、以前は、日本などの同盟国への安心供与として重要な役割を果たしているとの説明がなされていた。そのため、この退役に対しては日本の一部などで懸念が表明された。それまで重要だとされてきたものを不要、ないし他の手段で代替可能だというのであれば、丁寧な説明が求められる。

第2に、爆撃機の常時展開終了の決定は、地域の抑止態勢の全体像のなかに位置付ける必要がある。単体でその是非や影響を議論しても意味がない。米軍のDFEはグローバルなコンセプトだが、この地域では、まず日本や韓国に対してトランプ政権が強く求めるバードン・シェアリングの文脈がある。日米同盟の抑止態勢において、ミサイル防衛や警戒監視など、日本の果たす役割は上昇基調にあり、米軍の戦略爆撃機との共同訓練も増加している。加えて、2019年8月のINF(中距離核戦力)全廃条約の破棄を受けて、新たな地上発射型ミサイルのアジア太平洋地域への配備もアジェンダにのぼっている。 

これらは相互に連関しており、常に全体像のなかでの位置づけを踏まえた議論を行い、抑止態勢強化のパッケージを実現することが求められる。そのためには、米国が一貫したメッセージを発するとともに、同盟国・パートナーの側も、米国の決定に反応するだけでなく、米国に対しても能動的に提案していくような姿勢がいままで以上に必要になるだろう。

(2020年5月2日脱稿)
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2020/05/18

『EU離脱』の要約とトーク

拙著『EU離脱――イギリスとヨーロッパの地殻変動』(ちくま新書、2020年)が、本の要約サイト「flier」で紹介されました。あわせて、voicyの「荒木博行のbook cafe」(2020年5月11日)でも紹介していただきました。

flier:https://www.flierinc.com/summary/2254
voicy:https://voicy.jp/channel/794/79805


最近、本の要約が国際的に流行っていますね。忙しくてなかなか読めない人にとって、それで内容が一通り理解できることは、特に話題になっているビジネス書や教養書に関しては便利ですよね。読まずに「知ったか」できるわけです。そんなことを書くと、ピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』(ちくま学芸文庫、2016年)を思い出してしまいます。

ただ、このビジネスの深いところは、要約では飽き足らずに、本を手にとってくれる人が一定数いることなんですね。だからこそ出版社も著者も、こうした要約ビジネスに協力するわけです。筑摩書房自身、「webちくま」というサイトで新刊書の一部を公開しています。他の出版社も類似の企画が少なくありません。拙著の場合も、以前このブログでもお知らせのとおり、「webちくま」で「はじめに」が全文公開されていますし、JBpressにも要約が掲載されています。それらが売り上げにどのように貢献したかは、少なくとも著者には分かりませんが・・・。

ところでvoicyの「荒木博行のbook cafe」のアラキ(荒ちゃん=flierのCOO)は、実は大学の学部時代のゼミの同期です。卒業から20年以上たって、このような形でまた接点があるのは嬉しいことです。ということで、このvoicyは、本の紹介というよりは、昔の話がメインという感じですね。

2020/05/02

イギリスの新型コロナウイルス対策に影を落とす対EU、対中国関係

鶴岡路人「イギリスの新型コロナウイルス対策に影を落とす対EU、対中関係――Brexitカウントダウン番外編」東京財団政策研究所(2020年4月30日)が東京財団政策研究所のサイトで公開されました。

全文URL:https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3398


連載「Brexitカウントダウン」が今年1月に終了してから、久しぶりの東京財団政策研究所サイトへの寄稿になりました。Brexitは実現したものの、「Brexitは終わっていない」というのが実際のところです。

今回の新型コロナウイルス対策においても、人工呼吸器などのEUでの共同調達計画への参加問題がBrexitとの関係で政治的争点になり、また、たとえ感染が下火になっても経済的損害が膨大なものになることが確実ななかで、経済的にはさらなるダメージになるうえに、各種の非常事態計画が必要となる「合意なき移行期間終了」に本当に突き進むつもりなのか。ジョンソン政権の対応が問われています。